研究紹介

チタンの新製錬プロセス

チタン (Ti) は軽く強靭な上に海水中で抜群の耐食性を示し、さらに資源量が豊富な金属です。しかし、Tiの製錬と加工には特殊な方法と時間を要するために鉄やアルミニウムと比べて高コストとなり、その結果としてTiの用途は限られています。そこで、我々のグループではTiのコストの削減を目指し、2種類の新しい製錬プロセスを研究しています。

1) 溶融ビスマス (Bi) を用いたTiの新製錬プロセス

チタン原料 (TiCl4) をBi–Mg合金によって還元するという独自の方法により、まずはBi–Ti液体合金を生成します。その後、合金中のTiを濃縮し、真空蒸留によってTiとBiに分離します。このプロセスはTiの高速生産による低コスト化に加えて、Ti粉末の製造への応用が期待されています。これまでの研究で各工程の実証実験に成功しており、現在はより効率的な合金中のTiの濃縮や蒸留の高速化に取組んでいます。

(a) Biを用いたTiの新製錬プロセス。(b) Bi–Ti合金の真空蒸留後に粉砕して得られたTi粉末。
(c) (b)に球状化処理を行った球形Ti粉末。

2) 平滑電析を利用したTi板およびTi箔の直接製造プロセス

高温で溶融させたMgCl2やNaCl、KCl等の混合物 (溶融塩) にTiCl2を添加した電解浴を用いて電気分解を行います。このとき、カソードではTi2+を還元してTiを平滑に析出させ、これをカソード基板から剥離することでTi板およびTi箔を直接製造します。当グループでは簡易な装置でもパルス電解法によるTiの平滑電析が可能であることを実証し、さらに析出したTi箔をカソード基板から剥離することに成功しました。

溶融塩中での電気分解によってMo基板上に析出させた後、基板から分離して得られたTi箔。

プロトン伝導性電解質を用いた中温型燃料電池

燃料電池は、化学エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換でき、特に、固体電解質を用いた燃料電池は、小型化、高集積化が容易であり、その将来性が有望視されています。なかでも、中温域 (400-600 ℃) で高いイオン伝導性を有するプロトン伝導性電解質を使用すれば、低温型 (PEMFC) のように高価な白金系触媒を使用せず、高温型 (SOFC) よりも安価な構造材を使用した中温型燃料電池が実現する可能性があります。当研究室では、プロトン伝導性電解質のひとつである、アクセプターをドープしたバリウムジルコネート (BaZrO3) について研究を行っています。これまでの研究により、600 ℃ で30 mS/cm の大きな伝導度を実現し、さらに、水素極支持型燃料電池を試作した結果、開回路起電力1.03 V、ピーク電力172 mW/cm2 を実現しました。現在、燃料電池のさらなる高性能化および高耐久性の実現を目指し、燃料電池作製プロセスおよび電極に関する研究を遂行しています。

プロトン伝導性固体電解質 (BaZrO3) を用いた燃料電池の発電試験結果。挿入図は燃料電池セルの断面写真。

固体イオニクス材料の高精度・高効率スクリーニング

固体内のイオン伝導性を理論的に予測するひとつの方法として、伝導キャリアのポテンシャルエネルギー曲面 (PES) マッピングがあります。これは、ホスト結晶中に細かいグリッドを導入し、各グリッド点でキャリアのPE計算を網羅的に行うものであり、その計算コストは結晶の対称性低下とともに急激に増大します。当研究室では、第一原理計算に機械学習技法のひとつであるベイズ最適化を組み合わせることで、高速かつ高精度でPESを評価する方法論を構築しました。具体的には、イオン伝導を支配する領域は結晶全体の一部分であることに着目し、その支配領域のみを選択的に評価するものです。この手法を用いてプロトン伝導性を有する立方晶ペロブスカイト型BaZrO3のPESを評価したところ、全1768点のグリッド点のうち30点程度のPE評価でプロトン長距離伝導に対するポテンシャル障壁を精確に見積もることに成功しました。さらに、伝導に異方性のある正方晶シーライト型LaNbO4に対しても同様の評価を行ったところ、高々100点程度でab面内およびc軸方向のポテンシャル障壁を見積もることができました。開発手法を用いれば、無機結晶構造データベース (ICSD) に収録されている膨大数の多元系材料を高速かつ高精度でスクリーニングでき、理論計算主導の固体イオニクス材料探索が実現できます。

(左図) 第一原理計算と機械学習を組み合わせたPESマッピング手法のフローチャート。
(右図) 立方晶ペロブスカイト型酸化物BaZrO3中におけるプロトンのPESに提案手法を適用した例。

排熱の有効利用のための化学蓄熱材料

現在、工場や発電所では250 ℃以下の低温排熱が多量に捨てられています。蓄熱技術により排熱を蓄え、必要な場所・時間において有効利用できれば、化石燃料の使用量が低減できる可能性があります。そこで、化学反応の反応熱を利用した蓄熱技術に着目しています。その実現に向けては、排熱温度に適した反応温度と高い反応速度、十分な蓄熱密度を有する化学反応を探し出す必要があります。当研究室では、希土類硫酸塩の水和・脱水反応が100-250 ℃程度の温度域で高速に進行することを初めて見出しました。実験と計算機シミュレーションにより、この物質の脱水・水和反応は結晶構造中に水分子が脱挿入されることで進行しており、珍しい現象であることがわかりました。現在、この反応のメカニズムを詳細に調査するとともに、得られた知見に基づいて新しい化学蓄熱材の開発を目指しています。

(a)(b) 硫酸ランタン粉末の熱重量曲線と写真。
(c) 硫酸ランタン1水和物の結晶構造。図の奥行方向に水分子の拡散経路(通路)が存在。

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